教育コラム 引きこもりの原因は?
公開日:2024.09.30
引きこもりにはどのような原因があり、周囲はどのように接すればよいのでしょうか。引きこもり状態の子どもを前に、対応方法に悩む保護者も多いことでしょう。誤った対応によって状況を悪化させてしまうことのないよう、適切な知識を身につけておくことは大切です。
この記事では、高校生を含む若者の引きこもりに焦点を当て、統計データを用いた実情や引きこもりの原因、解決する方法や周囲ができる支援などを解説します。
引きこもりとは
引きこもりとは、長い期間にわたって社会活動を避け、自宅などに閉じこもり続ける状態のことです。
「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、引きこもりを「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念(※1)」と定義しています。
こちらの定義では、基本的には統合失調症などの精神疾患によって家にこもっている状態と引きこもりは区別されています。つまり、原則として「精神的な疾患による引きこもりの状態は定義には含まれない」ということです。ただし実際には、「確定診断がなされる前の統合失調症を患っている人が含まれている可能性もある」と考えられています(※1)。
高校生を含む若者の引きこもりの実情とは、どのようなものなのでしょうか。
内閣府の平成27年度調査(※2)によると、15~39歳の「広義の引きこもり群」の推計数は約54.1万人にのぼります。広義の引きこもり群とは、以下のいずれかを回答し、かつその状態になって6ヶ月以上経過していると回答した人のことです。
- 自室からほとんど出ない
- 自室からは出るが、家からは出ない
- 近所のコンビニなどには出かける
- 趣味の用事のときだけ外出する
広義の引きこもり群に属する15~19歳では、引きこもりの状態になってからの期間を「6ヶ月~1年」と回答した割合が20%、「3~5年」と回答した割合が80%という結果でした。
引きこもりの原因の多くは挫折経験
引きこもりの原因の多くは、挫折経験にあると考えられています。
15~39歳を対象とした調査で、外出頻度の低い15~19歳の回答者に「現在の外出状況に至った主な理由(※)」を尋ねた結果は、以下のとおりです。
このように原因は多岐にわたるものの、不登校経験や学校になじめなかったこと、人間関係がうまくいかなかったことなど、さまざまな挫折経験が外出頻度の低さに影響していることがわかります
1つの原因に限らず、複数の要因が複雑に絡み合っているケースもあるでしょう。ここでは、引きこもりの原因について詳しく探っていきます。
学校や職場等における自信の喪失
学校や職場などでの挫折経験から自分に自信をなくし、引きこもってしまうことがあります。以下のように、さまざまなケースが考えられます。
- 人の視線が気になる
- 容姿にコンプレックスを抱えている
- 学業や身体能力、スキルに対する劣等感がある
- 周囲からの期待と現状の差に思い悩んでいる
- 自分の意見が尊重されないことが続く
- 後輩に先を越されてプライドが傷ついた
- 大勢の前で恥をかいた
- 失敗して叱られた
「周囲と比べて自分はダメだ」と思い込み、自信をなくしてしまっているケースも考えられます。改善策をアドバイスする前に、本人が「ありのままの姿でも受け入れてもらえた」と実感できるような、個性に寄り添ったサポートをめざすことが大切といえるでしょう。
対人関係の苦手意識
対人関係に対する苦手意識も、よくある引きこもりの要因と考えられています。根本的には、様々な要因によって、他人と関わることに苦手意識をもってしまうことが原因になっています。よって、引きこもりの当事者には、対人関係を苦手とする人が多い傾向にあります。
対人関係に苦手意識をもつきっかけとしては、主に以下があげられます。
- いじめを受けた
- 人間関係のトラブルがあった
- 学校や職場の雰囲気になじめず孤立している
- 学生時代に不登校になった
- 失恋した
- 周囲とうまくコミュニケーションを取れない
不登校経験や人間関係でうまくいかなかった経験、学校になじめなかった経験などは、いずれも前述の「現在の外出状況に至った主な理由」の上位を占めています。
一方、明確なきっかけはないものの、小さなつまずきを何度も繰り返すことで対人関係に苦手意識を抱き、引きこもってしまうケースもあります。
生きがいを感じない
生きがいを感じられないことも、引きこもりの原因になり得ます。例えば以下のようなきっかけから生きがいを見出せなくなり、外界をシャットアウトして内にこもってしまうことがあります。
- 大切な人やペットをなくした
- 得意分野で他人に負けた
- ケガが原因で好きなスポーツを続けられなくなった
- 環境の大きな変化にストレスを感じている
なかには、「何をすればよいかわからない」と悩む子どももいるようです。選択肢を提示したり、子どもの気持ちに寄り添ったりすることが、引きこもり解消の糸口になる可能性もあります。
精神性疾患を抱えている場合
以下にあげるような、何らかの精神疾患が影響を及ぼしているケースもあります。
- うつ病:精神面・身体面で、気持ちが落ち込む、身体が重いなどの影響が生じる
- 統合失調症:原因がない状態で、突然の強い不安などに起因する、動機・呼吸困難・吐き気などの、症状が繰り返し起こる
- パニック障害:きっかけもなく急に動悸、呼吸困難、吐き気などのパニック発作が起こり、何度も繰り返される
- 社交不安障害:他人とのコミュニケーションの中で、人から注目されるような状況に強い恐怖心や不安感を持つ
- 適応障害:身の回りの目まぐるしい環境の変化に適応できないことで、ストレスを感じ、抑うつ・大きな不安を感じるといった症状が出る
精神疾患においては、不安感や恐怖感、過度な緊張感などを抱えがちです。そのため、社会や周囲の環境に適応できなかったり、自分の心を防衛しようという反応が起きることがあります。その結果として引きこもりにつながっていくケースも多く見られます。
前述のとおり、精神疾患を原因とする引きこもり状態は、原則として引きこもりの「定義」には当てはまりません。その一方で、引きこもりの背景に精神疾患が隠れている可能性もある、と考えられています。何らかの精神疾患や発達障害などが影響している場合、引きこもりを解決するには、根本にある疾患や障害の治療などを検討する必要があるでしょう。
引きこもりを脱する方法
引きこもりの子どもをもつ保護者にとって、引きこもりを脱する方法は特に気になるところではないでしょうか。
一般的には、以下のような方法が効果的です。
- 家の外に出る
- 家族以外と会話する
- 小さい成功体験を重ねる
家の外に出る
引きこもりを脱するためには、まずは家の外に出てみることが大切です。とはいえ、「大きな目的を掲げ、長時間にわたって外出する」といった必要はありません。まずは5~10分程度の軽い散歩でもよいので、外に出ることに少しずつ慣れていきましょう。
日中の外出で太陽を浴びれば、心を安定させるセロトニンというホルモンが分泌され、精神の安定を促します。「日中の外出は周囲の目が気になってしまう」という場合は、夜の散歩やサイクリングに挑戦してみるとよいでしょう。
家族以外と会話する
家族以外と会話する機会を、意識的に設けることも効果的です。
家に引きこもっている時間が長引くほど、家族以外の人とコミュニケーションを取ることのハードルが上がってしまうものです。対面でのコミュニケーションをとることは、自信の喪失に対して強い効果があります。
「うまく会話しなくては」と身構える必要はありません。できる限り会話のハードルを下げ、以下のように本人にとって気軽なコミュニケーションから挑戦してみることがおすすめです。
- チャットや電話など非対面の会話から始める
- お店の人に「ありがとうございます」「ごちそうさまでした」と伝える
- 知り合いに「こんにちは」と挨拶する
小さい成功体験を重ねる
以下のように目標を立て、小さな成功体験を積み重ねていく方法もおすすめです。
- 午前中に起きる
- 友人と通話する
- 近所を散歩する
- コンビニのレジでお礼を言う
- 電車やバスに乗る
たとえ周囲からは簡単そうに見える内容であっても、自分で目標を立てて、それを達成するというプロセスが自信の回復やモチベーションの向上につながります。簡単な目標設定から少しずつ始めて習慣化していくことで、引きこもり解消につなげていくことができるでしょう。
周りの人ができる支援
引きこもりの子どもがいる場合、家族や周囲の人間はどのようにサポートすればよいのでしょうか。ここでは、周囲の人ができるサポート方法を3つ紹介します。
こまめに話しかけ、無理強いは決してしない
話しかけられることで精神的に負担をかけないように気をつけながら、こまめに会話を持ちかけてみてください。芸能界やペット、最近話題のニュースなど、気軽に話せる内容がおすすめです。反対に、学校や友人、将来の話題などは避けたほうがよいでしょう。
会話がぎこちなくても構いません。「あなたと話したい」という気持ちを伝えることを大切にしてください。対面でのコミュニケーションが難しければ、文面での非対面のコミュニケーションでもよいでしょう。
ただし、無理強いは禁物です。例えば、本人が「そっとしておいてほしい」と感じているときに「引きこもっている状況をなんとかしたい」という焦りから無理強いしてしまうと、プレッシャーから状況が悪化してしまう恐れがあります。本人の気が向くまで、焦らず気長に待ちましょう。
本人の気持ちを理解するよう努める
本人の気持ちを理解するよう努めることも大切です。
例えば、周囲からはただ怠けているように見えても、本人は「引きこもりから抜け出したいのに、それができない」という罪悪感を抱えているケースは少なくありません。自信を失い、心が傷ついている状態といえます。
本人が伝えたいことを引き出すためにも、気持ちに寄り添い、理解する姿勢を示しましょう。「辛い中でも、ひとりでよく頑張ったね」など、肩の力が抜けるような「本人を認め、ねぎらう言葉」をかけてあげてください。
公的な機関へ相談する
引きこもりの悩みは、早めに公的な機関に相談してみましょう。問題を家族で抱え込んでしまうことで引きこもりが長期化したり、状況の悪化を招いたりする恐れもあるためです。
次のような公的な機関で、引きこもりについて相談できます。
- ひきこもり地域支援センター
- 精神保健福祉センター
- 保健所
都道府県・指定都市に設置されている「ひきこもり地域支援センター」は、引きこもりに特化した第一次相談窓口です。電話や来所などで、社会福祉士・精神保健福祉士・臨床心理士といった「ひきこもり支援コーディネーター」に相談することが可能です。また、家庭訪問を中心とするアウトリーチ型の支援も行っています。
「精神保健福祉センター」では、引きこもりを含む精神保健福祉全般にわたる相談を電話や面接で受け付けています。「ひきこもり地域支援センター」と同じく、都道府県・指定都市に設置されている施設です。
地域の保健所でも、引きこもり相談をはじめとするこころの健康、保健、医療、福祉に関する幅広い相談を受け付けています。電話や面談による相談だけでなく、相談者の要望によっては保健師の家庭訪問による相談も実施しています。
引きこもり支援の諸段階
引きこもり支援では家族支援から始まり、当事者の個人的支援を経て集団療法へと移行し、就学・就労を中心とした社会活動へとつなげていくことが一般的です。
各支援は、次の段階に移行した後も継続して行われるべき、とされています。どの段階にどの程度の時間が必要になるかは、ケースによって大きく異なります。
ここでは、「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」を参考に、以下にあげる支援をステップごとに確認していきましょう。
- 家族支援
- 個人療法
- 集団療法
- 就労支援
家族支援
未成年の引きこもりの場合は特に、相談・治療・支援の場に本人が出向くことを拒んだり、家族に促されてしぶしぶ出向いたりするケースが少なくありません。このような場合は家族支援からスタートし、段階を踏んで次の個人療法へと移行していきます。家族支援の「家族」とは、父母や祖父母だけでなく、親戚なども含みます。
主な家族支援の内容は、次のとおりです。
- 個別面談
- 集団療法的アプローチ
- アウトリーチ型支援
「その場に本人がいなければ、意味がないのでは?」と感じる家族もいるかもしれません。しかし、家族に対する個別面談の例でいえば、次のような意義があります。
- 引きこもりの子どもをもつ親の苦悩が受容された経験を得られる
- 家族面接を通じて当事者への影響を期待できる
- 親が共同支援者としての冷静さと意欲をもてる
- 両親間の協力関係を構築できる
引きこもりの当事者が相談・治療・支援の場に同席できる場合においても、家族支援は大切な支援と位置づけられており、次の段階の個人療法が始まってからも継続されるべき、と考えられています。
個人療法
引きこもりの当事者が相談や治療に参加できるようになったら、次のステップは個人療法です。高校生までの引きこもり支援の場合、以下のようなさまざまな機関が相談や治療を提供しています。
- 教育相談機関(教育センター・教育相談所など)
- 精神保健・福祉機関(精神保健福祉センターなど)
- 医療機関(児童精神科・精神科・小児科など)
- 民間のNPO団体
ひとつの機関だけでは支援の難しい面があるときは、複数機関が連携した支援が提供されることが望ましい、とされています。
個人的支援の段階では、カウンセリングなどの精神療法がメインです。当事者の罪悪感や孤立感に寄り添い、動き出した新しい歩みを支えることを目的とした支持的精神療法を基本に、さまざまな技法の精神療法が用いられています。支援者との会話によって信頼関係を構築できる点や、外出して他人と会話する習慣を身につけられる点も、大きな成果となり得るでしょう。
このような精神療法は、元々当事者がもっている自我の活力の回復をめざし、「一つひとつの障害物を乗り越える当事者の心の中の仕事に伴走する支援」ともいわれています。初期の支援では、当事者と支援者双方が「結論を焦らないこと」が大切です。
集団療法
個人療法がうまくいった場合、集団療法へと進みます。
さまざまな悩みをもつ人同士が集まって話し合うことで解決をめざす「自助グループ」や、病院・保健センターなどで行われる「デイ・ケア」といった集団療法を通じて、家族以外の他人と触れ合う経験を重ねていきましょう。
当事者は、同年代集団との交流に対して特に大きな抵抗を感じているケースが少なくありません。そのため、グループを活用した適切な支援には大きな意義があるといえます。
また、一度引きこもりの状態から脱しても、些細なきっかけから再び元の状態へと戻ってしまう当事者がいることも実情です。集団療法には、このような逆行を防ぎ、周囲とのコミュニケーションを維持できるようサポートする効果もあります。
ただし、集団療法への参加は周囲が強要すべきものではありません。「当事者の意思による参加」であることが重要なポイントです。また、当事者が集団療法に慣れるまでには人一倍の疲労感があり、回復にも時間がかかることを周囲が理解しておく必要があるでしょう。
就労支援
引きこもりの当事者の就労支援を目的とする支援機関には、主に以下があげられます。職業訓練校などが有効になるケースもあるでしょう。
- ハローワーク
- 地域若者サポートステーション
- ジョブカフェ
- ヤングワークプラザ
- 学生職業総合支援センター
就労支援は、集団療法を通じて当事者の意欲が向上し、社会への関心が十分に育った段階でスタートすることが重要です。支援体系の全体を考慮し、前段階から就労支援へとつなげる役割を担う機関がある一方で、あくまでも就労支援に限定した機関もあります。就労支援段階に入っても、引きこもりの当事者には繊細な配慮が求められることを覚えておくべきでしょう。
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まとめ
高校生を含む若者の引きこもりには、挫折経験をはじめ、自信の喪失や対人関係への苦手意識など、さまざまな原因が考えられます。
引きこもりから脱するためには、「家の外に出る」「家族以外と会話する」「小さい成功体験を重ねる」といった方法を、気軽にできることから取り組んでみましょう。
引きこもっている相手と接する際は、本人の気持ちを理解することを意識し、こまめに話しかけてみてください。家族では問題を抱えきれないときは、無理せず相談機関を頼ることも大切です。
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